おわりに

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 翌日、ぼくは旅館を後にして市内を車で流していた。すると、図書館の前を通りかかった。涼風村に図書館たるものはなかった。しかし、隣のこの市の図書館ならば近隣の市町村の歴史を紐解く何かがあるかもしれない。涼風村について調べてみることにした。 図書館には涼風村の村史が置かれており、斜め読みをしてみたところ…… 本当に日本各地どこにでもある村としか言いようがなかった。人間剥製どころか、剥製のはの字すら書かれていないのである。村内の写真も掲載されていたのだが、荒い白黒写真故にぼくの記憶の中にある総天然色(フルカラー)の涼風村との照合は出来なかった。 そして、村史の最後のページは「地震と、それに伴う地滑りによって村は永遠の眠りに就いた」の一文で締められていた……  ぼくは納得がいかずに、図書館司書に更なる涼風村の資料を求めた。しかし、図書館司書は「これ以外に存在しません」の一点張り。本当に存在していなければ、これ以外の言いようがない。すると、図書館司書は何かを閃いたようにポンと手を叩いた。 「あの、この辺りの地方新聞の近郊版なら涼風村のことが多少は書いてあると思いますよ」 ぼくは地方新聞の縮刷版の近郊版のみを延々と読み続けた。涼風村に関する最後の記事は、三年前に地震による地盤沈下と土砂崩れで沈んだと記載されているものであった。死亡者数も死亡者名も不明…… この市の市役所との連携がなく情報は皆無。そこから一日一日を遡って記事を読んでいくが、いかにも村と言ったローカルな記事しかない…… 例を挙げるなら、山から猪が下りてきたとか、ニホンザルに子供が引っ掻かれたなどと言った具合である。後はあっても過疎化による廃村危機の問題のみ。せめて村長選挙の動向が掲載されていれば「秋元正清」が本当に村長であるかが分かり、少しは手がかりになると思っていたのだが…… ない。あれだけの過疎の村であれば、新聞社も村長選挙を記事にする必要がないと判断するのも仕方ないだろう。 ぼくは地方新聞からは手がかりは得られないと思った。しかし、一つの記事が飛び込んできた。 涼風村にて少年の変死体発見。木で首を吊られた状態で発見されたと報せるものだった。 名前は「涼風芯太ちゃん 6歳」 ぼくはその名前を見た瞬間、心臓も肺も全てが握り潰されるような思いに襲われた。思わずに胸を押さえながら記事を読み進めていく。 事件の発生は五年前。涼風村が地の底へと消える二年前の事件となる。児童養護施設、小鳩愛育園の子供である芯太ちゃんは学校帰りに姿を消した。不審に思った園長先生始め、村の若者達による捜索が行われるも、一晩発見出来ず。その翌日、芯太ちゃんが通う小学校の近くの木にて首を吊った状態で発見。現場の状況から、事件と自殺両方の可能性で警察は捜査を進めている。 捜査関係者によると、踏み台もなく、遺書もないことから事件と見られ、事件の前日に芯太ちゃんと二人で歩いていた男の目撃証言があり、容疑者として事情を聞く予定とのことであった。
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