おわりに

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芯太少年と二日前に一緒にいたのはぼくだ。しかし、芯太少年はもう五年前に亡くなっていると言う。ぼくと一緒にいた芯太少年は何者だったのか? そもそも、二日前には涼風村は存在していない。だから不審者は「ぼく」ではあり得ない。「ぼく」である筈がない。 一体…… どうなっているんだ? ぼくは続報を求めて明日以降の新聞を読もうと考えたが、これまで涼風村が地の底に沈んだ記事からずっと遡って読んでいる時点で、明日以降の新聞は全て読んでいる。続報は…… ない。 お手上げかと思い、更に一日記事を遡ったところ「近頃村を徘徊する不審者情報」の記事が飛び込んできた。 不審者情報。体格は細く、髪は黒、上は黒い前開きのパーカーに青シャツ、下は青のジーンズ、靴はスポーツメーカーものの運動靴。これらの特徴が警察官によるイラストで描かれていた。 芯弥の格好がそのままこれであることを思い出した。もしかして、芯太少年は芯弥が手にかけたと言うのか? 一体、何がどうなっていると言うのだろうか…… ぼくは困ったように頭を掻いてしまう。 とりあえず、情報はゼロから多少は進展はあった。だが、ぼくは警察でもなければ探偵でもない。 ぼくがこの不可解な事件や事象の真実を暴いたとして何になる? 知的探究心の解消にしかならないじゃないか。  ぼくが涼風村にいたという証拠はなにもない、あるとすれば持っていた地図と芯太少年のために買った子供服だが、知らないうちになくなっていた。 ポケットや車の中を引っ掻き回しても見つけることが出来なかったのである。  もう、考えるのはやめよう。ぼくに何があろうと、社会はそれを慮って優しくしてくれることはない。それがマスコミ業界であるなら余計にである。 ぼくは半日車を走らせて、東京へと戻るのであった……
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