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東京に戻り、ダイダロス映像が入ったビルに辿りつくと、ビルのロビーはダイダロス映像に取材をせんとする記者達でごった返していた。
ぼくは黒山の人集りを掻き分けて、ダイダロス映像のフロアへと入った。ダイダロス映像内は有線放送のBGMのように電話の着信音が鳴り響いていた。所属するAD、ディレクター、プロデューサー、事務に至るまで皆電話応対に駆り出されており、阿鼻叫喚の様相そのものであった。
外様のフリーランスであるぼくには関係のない話だ。ぼくは事務の織田さんに帰京報告を行うことにした。織田さんは電話で平身低頭平謝りをし、忙しいようだったが、ぼくの姿を見るなりに謝罪を切り上げて、ぼくに向かって手招きをし、招き寄せた。
「お疲れ様っす」
「ああ、お疲れ様。今ちょっとウチ大変なのよ、用件だけ簡単に説明するね?」
織田さんは机の中より一枚のペラ紙を出した。契約終了書である。
「これ、書いといてくれる? ADさんの報酬の振り込みもちょっと遅れるかもしれないけど、ごめんね」
ぼくは契約終了書を手に取り、織田さんに尋ねることにした。いきなり契約終了とはどういった了見だろうか。今回、ぼくは紀行番組の仕事としては何も得ることが出来なかったロケハンしかしていないが、それが契約終了理由にはなるとは思えない。まだ、紀行番組の企画も概ねしか立ち上がっておらず、番組の体すらも成り立っていない状態である。
とりあえず、何があったかを聞かなくてはならない。ぼくは辺りを見回しながら織田さんに尋ねようとすると、一つの違和感を覚えた。山石井がいないのである。
「あの? 山石井さんは? 今回のロケハンの報告の方を」
「ああ、もうしなくていいよ。番組打ち切り! 山石井さんが担当してた番組はレギュラー放送も特番も全部問答無用の打ち切り!」
「あの…… もしかして山石井さんに何かありました?」
「ADさん? 多分、すぐに別の番組行くと思うけど…… 今回の番組、いや、山石井さんのことは何も喋っちゃダメだよ? 契約終了書にも書いてあるけど」
契約終了書には「今番組(今回担当した紀行番組)での、今回の業務・取材・撮影内容は決して他言しないこと」と記載されていた。勿論、関係するスタッフのことも含まれている。
「あの…… 本当に何がありました?」
織田さんは深い溜息を吐いた。
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