おわりに

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「こっちだって大変なんだからね? 説明するのも面倒なのよ? ニュースでやってるから自分で見てくれる? 多分、昨日今日の一面記事になってるから」 やれやれ…… 一体何なのだろうか。ぼくはスマートフォンでニュースを見ることにした。 ニュースの見出しは〈有名番組ディレクターによる殺人事件発生〉であった。 ぼくは思わずに「ええっ?」と叫びながら身を乗り出してしまう。これはミステリーやサスペンスのドラマ内で使われるはめ込み合成のニュース記事を流しているのか? しかし、正真正銘のニュースである。 記事内容は〈テレビ番組制作会社ダイダロス映像に所属する山石井洋平容疑者は酒の席で、後輩のアシスタント・ディレクターである仲根芯弥さんを殴りつけ、死に至らしめた事件について……〉簡単に記事を纏めればこんな感じである。しかし、ぼくはその記事内容を信じることが出来なかった。 芯弥とは一昨日まで涼風村に一緒にいて、話もしている。何故に山石井に殺されたということになっているんだ? そもそも、山石井が芯弥を殴り殺したと言う事実を理解することが出来なかった。 「あの? 山石井さん…… 何やったんですか?」 「ニュースの通りよ。ほら、ADさんがナントカ村まで履歴書返しに行ったでしょ? 返せなかったでしょ?」 「え……? 返しま……」 返しましたけど。ぼくにその一言を言わせずに織田さんは続けた。 「仲根くんだけど、酒の席で山石井さんに殴られたじゃない? その時に居酒屋の窓縁の角に頭ぶつけちゃったのよね。仲根くん、そのまま家には帰ったんだけど…… 頭の打ちどころが悪かったのか、そのまま起きることなく亡くなっちゃったのよ。それを、大家さんが発見して警察に通報して調べたら死因が頭蓋骨陥没骨折による殺人ってことになったの」 つまり、ぼくが聞いた「仲根くんが飛んだ」とされる日にはもう亡くなっていた事になる。ぼくにはそれを信じることができなかった…… 実際に芯弥に会っているだけに受け入れがたい事実である。 「でも…… ぼくは……」 ぼくは確かに涼風村で芯弥に会っていることを伝えようとしたのだが、それ以上は口に出すことが出来なかった。ぼくが涼風村に出発した日にはもう亡くなっている芯弥に会ったと言ったところで信じてもらえる筈がない。 「それで、警察が当日の仲根くんの動向を調べたら、酒の席で山石井さんに殴られたって証言がいくつも入って、逮捕されたって流れ。山石井さん、お爺さんの葬儀が終わってここに帰ってきた瞬間に刑事さんに逮捕状突きつけられて、手錠(ワッパ)かけられたんだからね?」
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