おわりに

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「それで、局とかは?」 「ADくん? こう言った時の対応の早さは君もよく知ってるんじゃないの?」 そう言われると、何も言えない。山石井の携わっていた番組を全て打ち切ったことはまだ火消しの序曲に過ぎない。とは言え、不謹慎ながらに盛り上がる話題だ。コメンテーター陣に叩かせるだけ叩かせて、インターネットでは炎上を避けるために叩きつつも宥める「ガス抜き」のような書き込みを行っての鎮静化を図り、本丸たるニュースの報道も減らしていき、時の流れによる風化待ちを狙っているのだろう。 どうやら、涼風村のことを考えるのをやめるのはまだ先になりそうだ。 それに加え、山石井による芯弥殺害の件も加わり、混迷に混迷を重ねた事態になっている。 ぼくは、この件に関しては「傍観者」の立場に立たせて貰いたい。誰だって、こんなことには深く関わりたくないのは当然だろう。  芯弥には遺族が誰もいない。天涯孤独の身である。それ故に裁判は被害者遺族不在で行われた。山石井は「軽く殴っただけだ。殺意はなかった」と主張するも、酒の席で勢いに乗って殴ったことを同席していた同僚に証言され、裁判長や裁判員の心象は芳しくない。 弁護士も山石井の減刑のために「普段はAD思いの優しい男である」と情に訴えかける作戦に切り替えたのだが、山石井と言う人間の人格を知らずにこの作戦に出たのが運の尽きだった。山石井チルドレンとされる(かつて)の後輩達に証言を願い出たのだが、拒否、もしくは裏切りの証言によって余計に心象を悪くする結果になってしまった。元ADが証言台に立ったのだが「私は山石井さんに殴られたり、給料の半分を『お前は仕事が半チクで、俺がお前の分も仕事してるから給料は半分没収だ』と盗られたりしてきました!」と証言。弁護士も「ここは被告人の人格を問う場ではない」と話を反らしにかかるも、一度証言として記録された以上はもう手遅れ。裁判長や裁判員の心象は益々悪くなるのであった。そして、山石井もその証言をした元ADに対して「デタラメを言うんじゃない!」とヤクザを思わせる恫喝的な怒声を上げたために、法庭での心象は地の底まで堕ちるのであった……
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