おわりに

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ダイダロス映像としては山石井は長く勤めるディレクター。各テレビ局に番組を持つほどの売れっ子ディレクター故に稼ぎ頭故、守ろうと考えた。「山石井は仲根くんを強くは殴っていない、仲根くんが酒で千鳥足になって勝手に転んだだけだ」と殺人から傷害致死に事件をすり替えることにしたのである。弁護士が情に訴えかける作戦から、当日あった事実を訴えた上での減刑への切り替えを考えた上での入れ知恵である。 同席していた他事務所のADが「山石井さんが『ADだったらディレクター(おれ)の酒が切れるタイミングぐらい分かって注ぎに来い!』って言いながら仲根くんをグーパンで思い切り殴るところを見ました」と警察に証言したのだが、法庭でこれが通ることは法庭での心象が悪くなるとし「山石井が『酒、注いでくれ』と仲根くんを呼び出したところ、仲根くんも酒が入ってて山石井さんの声が聞こえなくて、酒はどうしたって感じで軽くコツンと殴ったら、転んで窓縁に頭を打ってしまった」と、言葉巧みに口車に乗せて証言を切り替えさせた。勿論、正しいのは前者である。 それにより「酒に酔った勢いでの殴打に偶然が重なっただけ」であると法庭の心象を得た山石井は殺人罪から傷害致死へと罪状が切り替わることになった。 テレビ局としては社長を始めとしたお偉方が「これからはこう言ったADに対する暴力行為を許さないためにプロデューサー・ディレクターに対する指導を徹底し、コンプライアンスを徹底します」とだけ会見をして終わっている。 人の噂も七十五日…… 皆がこの事件を忘れた頃になり、山石井に判決が下った。罪状は傷害致死での懲役三年。酒の勢いに乗っての殺人としては軽いと言う声もあったが、一部のみだ。ぼくもその一部ではあるが、それを声に出すことは許されない。
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