おわりに

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 芯弥の遺体であるが…… 荼毘に付された後、無縁仏として都内の霊園の片隅の無縁墓に埋葬されることになった。警視庁記者クラブに所属する友人からそれを聞いたぼくは、山石井のことを報告するために霊園に足を運んでいた。名も刻まれていない無縁墓の山の中から芯弥の墓石の位置を聞いていたぼくはその前で手を合わせていた。無縁墓に手を合わせてはならないとされてはいるが、ぼくにとっては芯弥に対する鎮魂の気持ちが強く気にすることではなかった。 芯弥の冥福を祈り、彼を手に掛けた山石井はたったの三年で刑務所から出てくるということを遺憾ながらに報告した瞬間、ぼくは後ろから声をかけられた。 「もし?」 ぼくに声をかけたのは背広姿の男だった。男は背広の内ポケットに手を入れ、警察手帳を差し出してきた。ぼくは警察の世話になるようなことをした覚えはない。思わず、緊張してしまう。 この男はおそらくは刑事だ。涼風村がある県の県警の警部補である。しかも、ぼくが涼風村を出てすぐに被害届を出しに行った警察署の所属であった。 「失礼。無縁仏に手を合わせると『やさしいひと』と思われて取り憑かれますよ? それともお知り合いでしたか?」 「ええ、まぁ。同僚であるとも言えますし、同僚でないとも言えます」 「はぁ、よくわからないことを言いますな。もしかしてですが、仲根芯弥さんのお知り合いですかな」 ぼくは本当に驚いた。何故に芯弥の名を刑事が知っているのだろうか。とりあえず、肯定しておくことにした。 「はい…… ぼくはフリーランスのADをしてまして。仕事先の制作会社が一緒になった関係です」 「そうですか。お知り合いなら取り憑かれる心配もありませんね。失礼いたしました」 「いえ…… 刑事さんこそどうしてこちらへ?」 「私も、仲根芯弥に会いに来たのですよ。五年前の事件の最重要容疑者が亡くなったと警視庁から連絡を受けましてね」 五年前…… ぼくは刑事の言うその言葉を聞いて、全身が冷える思いに襲われた。そして思わずに口に出してしまう。 「もしかして…… 涼風芯太ちゃんの件ですか?」 刑事は驚いたような顔をした。どうやら当たりのようだ。刑事は続けた。 「アンタ、どうして地方の殺人事件の被害者の名前を知っている?」 ここで嘘を()いても仕方ない。ぼくは「涼風村」で芯太少年に会ったと言う点を伏せ、ミステリアスな事件の調査をしていたと言う尤もらしくマスコミじみた説明を行った。調査をしていたのは本当だ、嘘は()いていない。 「マスコミさんは余程ネタに困ってるんだな? 地方新聞の近郊版にしか書いてない記事まで拾ってくるんだからな」 「モラルのない上司を持つと大変ですよ」 「まぁ、もうこれで『オミヤ』な問題だ。話しても構わんだろう」 オミヤ。警察用語で迷宮入りのことを言う。ぼくは嫌な予感を覚えていた。
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