おわりに

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全てを知る芯弥は目の前にある名の刻まれていない無縁墓の下で永久の眠りに就いた身故に確かめようがない。 涼風村も地盤沈下と土砂崩れで荒れ地の枯芒(かれすすき)、存在しない。 ならば、ぼくが話をして一緒にいた芯弥や芯太少年…… 世話をしてくれた絹枝は一体誰だったのだろうか? ならば、ぼくを殺しに来た芯次郎や秋元村長を始めとした村人たちは何だったのだろうか? そもそも、ぼくが迷い込んだ涼風村とは何だったのだろうか? ぼくは刑事に尋ねてみた。 「あの、今は涼風村はどうなってますかね? 本当に廃村なんでしょうか?」 「あ? 言ったじゃないか。荒れ地の枯芒(かれすすき)だって。再開発の予定もないよ」 (すすき)は地下茎で繋がっており、根を伸ばして繁殖する植物である。地上の(すすき)を刈り取っても、根に蓄えた栄養のお陰で瞬く間に再生し、鼬交互(いたちごっこ)となってしまいキリがないのだ。冬になり枯れ果てたとしても根に蓄えた栄養のお陰で翌年の春には再び生えてきてしまう。つまり、荒れ地中の地面の下に貼る(すすき)の根を、文字通りに根絶やしにしない限り再開発は不可能と言うことになる。薬を使えば根絶やしには出来るのだが、再開発を行うために村一つ分は枯芒の広がる荒れ地に大量の薬を蒔くと言う話は現実的ではない。 刑事は続けた。 「それにあそこは粘土質の土でカチカチになってるんだ。地盤沈下と土砂崩れで沈んだ村を掘り起こそうとするなら、冗談じゃない程の金がかかっちまう。予算が下りる筈もない大金かけてまで再開発するような馬鹿はいねぇよ」 おそらくは、掘り起こしさえすれば絶滅動物の剥製や、人間剥製も出てくるだろう。しかし、長い間土に埋もれている間に毛皮や皮膚は風化しており「芯」しか残っていない可能性が高い。奇跡的に剥製達が原型を留めていたとしても、おそらくは掘り起こす方が金もかかるだろう。そんなところを掘り起こして再開発を行うなんて、それこそ馬鹿の所業だ。 今度こそ、ぼくは涼風村のことを忘れられそうだ。少し前、涼風村から帰ってきたばかりの時になるが、山石井の紀行番組が打ち切りになったことで僅かに暇が出来たことで、軽くではあるが涼風村の調査を行っていたことがある。  ぼくが注目したのは「剥製」だ。芯弥は博物館や動物園に剥製の作成依頼を受けていたと言っている。それならば「依頼」をした誰かがいるのは当たり前のことだ。ぼくは全国の動物園や博物館に電話をし「剥製の作成依頼をどこに出したか」と言う質問をするのであった。 答えは…… 日本にいる名のある剥製師や、海外にある剥製師の学校などと様々。涼風村の剥製師である仲根家に依頼したと言う話を聞くことは出来なかった。 ただ、ぼくが聞いた博物館や動物園が所有する剥製の中には「出自」「調達先」「作成依頼先」が一切不明のものがあり、かなりの昔からあり、いつから所有しているかが分からないものがいくつか見受けられた。尋ねてみても、担当者は鬼籍に名を刻んでおり詳細が何もわからなかった。 ぼくはその剥製の中で観賞が可能であるものは直接観に行き、確かめに行ったのだが…… 身元が確かなものに比べて出来が素晴らしく感じられた。ぼくの素人目では「縫い目の有無」でしか判断がつかなかったのだが…… 仲根剥製工房の仕事であるように思えてならなかった。
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