はじめに

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はじめに

ぼくはフリーランスのAD(アシスタント・ディレクター)である。ADとはディレクター、つまりテレビ番組を作る際の現場監督の補佐(ASSISTANT・アシスタント)として動く役回りである。ぼくはこんな仕事を十年以上も続けている。 補佐役と言うと聞こえは良いが、所詮はディレクターがやるまでもない「雑用」を行うだけの小間使いのようなものだ。ただ、この仕事は死ぬほどキツイもので、実質はディレクターの「奴隷」のようなものである。それ故に離職率が高く、どれだけ長くても一年から二年で辞める子が多い。ぼくの知る子では採用されて数時間で「ヤバい」と気がついて、トイレに行くフリをしてそのまま失踪するかのように退職した子もいたぐらいだ。その子は無責任だとは思うが、とても賢いとも言える。 そのようなわけで、三年以上の経験があり育ったADはそうそういない。デキる子は上司に気に入られてディレクターに昇進するか、辞めるかの二者択一だ。 つまり、テキパキと仕事が出来るADはそうそういないと言うことである。 こんなAD業界に十年以上在籍し、ずっとAD業務を続けているぼくは各テレビ局や各テレビ番組制作会社からも重宝がられている存在だ。だからと言ってぼくは自分をすごいヤツだと思うことはない。 フリーランスと言う立場故にフットワークが軽くテレビ番組と呼べるものは何でもやってきた。 報道ニュース、スポーツニュース、ワイドショー、ドラマ、バラエティ、クイズ、教育、環境、ドラマスタッフ継続による映画撮影…… 最近では時流に合わせてYouTuberの動画撮影スタッフも担当している。その経験を活かして自分のYouTubeチャンネルを作り、本業であるAD以上の収入を得ることにも成功している。 こうして多種多様な番組を担当していると、怖い話も一つや二つじゃ済まない。科学で説明のつかない怪奇現象や、怪奇よりも怖い人間に会うのも珍しい話じゃない。 今回はこの中から一番の怖い話をしようと思う。
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