女×2.5=母

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お昼を食べ終わると美理は幼馴染みとお茶を飲むと出掛けて行った。 最後の日くらい……と思っても、親が仕事でいない寂しさを乗り越えられたのも友達がいてくれたからだとわかっている。 私は今晩のもんじゃ焼きの材料を買いに外に出た。キッチンに射し込む陽射しは暖かかったが、扉を開けて外に出ると冷たい空気に慌てて自然と首元のマフラーを絞め直していた。足早にスーパーへと向かう。 キャベツを手に取ると巻きが固い、もんじゃには向かないなぁと思い、少し遠回りだけどキャベツだけは商店街の八百屋で買う事にして、その他の材料だけを買ってスーパーを出る。 目的のキャベツが手に入りエコバックを肩に掛けスーパーからではない、いつもと違う道で家に向かった。 久しぶりに通る裏通り、のんびりとした空気が流れていて私も心なしか、差し出す足がゆっくりとなっている。 変わらず冷たい北風が時折吹いてくる。その風とともに金木犀の香りを感じた。 「お母さん、私この匂い好き!」 美理が小学校に入ったばかりの時、私は夫の裏切りから失意の中にいた。その頃はまだスーパーはなく、商店街で買い物をして帰っていたこの道。美理がその言葉を言ってニコニコと私を見上げていた顔を思い出した。その笑顔を見て私は強くなろうと決めたんだ。 私は向きを変え今来た道を足早に戻っている。 ドラッグストアの中に入った。確かネットで金木犀のフレグランスが売れているって……「あった!」思わず頬が緩んだ。
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