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アベル
一週間後ーーー
ピンポーン
瞳子の家のチャイムが鳴る。
「はーい!」
いよいよ保護主さんとバブ君とのご対面だ。
(うぅ、緊張する…私は里親として認められるだろうか)
「どうぞお上がりください」
保護主さんとバブ君をリビングに通した。
お茶を出す前に保護主さんが話し出す。
「この度は里親にご応募いただきありがとうございます。プロフィールにも書いた通り、酷い境遇の中で頑張って生きてきた子なんです」
そう言ってバブ君をキャリーから出した。
「ニャー!ニャー!」
バブ君は大声で鳴きながら真新しいデオトイレにこもってしまった。
「初めての場所で不安だよね。怖いよね。でも大丈夫ですよー」
瞳子は優しくバブ君に語りかける。
それからまた保護主さんは話し出す。
バブ君がどういう経緯で保護されたか。
前の飼い主はどのような人物か…。
前の飼い主は猫を買っては世話をしきれずネグレクトしていて、家は多頭飼育崩壊現場だそうだ。
保護主さんはその前の飼い主の家から、何匹もレスキューしたそうだ。
それでも猫は増え続ける。猫を買うのをやめないのである。
前の飼い主は生活保護を受けているから、私は行政とも繋がっていると保護主さんは言った。
「そうだったんですね…バブ君にはこの家でゆっくり余生を過ごしてもらいたいと思います」
「ありがとうございます。そう言っていただけて…霧島さんなら安心してバブ君を譲渡できます」
「あの…バブ君なんですけれど、その…名前を変えてもいいでしょうか?」
「いいですよー。もう決まってるんですか?」
「はい。アベルと名付けたいと思っています」
「いいと思いますよ」
保護主さんからはあっさりOKが出た。
「名前変えてしまってすみません」
瞳子は猫に向き直る。
「今日からアベルって呼ばせてね」
猫…アベルはまだ不安でニャーニャー鳴いていたが
「あ、そういえばアベル君の朝ごはんがまだなんですよ。霧島さんあげてみますか?」
保護主さんが提案してくれた。
「あ、はい!ごはんは一回につきどのくらいの量をあげればいいですか?ごはんとお水のお皿はこのような少し高さのあるものを選んだのですが、これでいいですか?」
「はい、これで大丈夫ですよ。ごはんはこのくらいの量を1日3回あげてください。アベル君おいでー。ごはんだよ。霧島さんが用意してくれたよー」
「ニャーン」
アベルがこもっていたトイレから出てきた。
この時初めて、瞳子はアベルに触れた。
「わぁ、触らせてくれた」
「サマーカットをした直後なのでモフモフではありませんが、毛はすぐ伸びます。…うーん、尻尾の毛までカットしなければよかったな」
保護主さんの言う通り、フサフサ尻尾には程遠かった。
「でも可愛いです。モフモフになるのが楽しみだなぁ」
食事を終えたアベルは落ち着いた様子を見せた。
「あらためまして。今日から私がおかあさんです。よろしくね」
瞳子はアベルに挨拶をした。
アベルは瞳子を見つめた。
アベルは男の子のラグドールにしては小柄な方だった。
水色の目、キリッと上がった目尻。
目力の強い子だな、と瞳子は思った。
今日から一人と一匹は、家族になった。
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