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防音壁が途切れた瞬間、隣に座る彼女はいつもほんの少し身を乗り出して、窓の外を見ていた。本人はその癖に気づいていなくて、指摘すると恥ずかしそうに「外が見たいから」と言っていた。
助手席には今、誰もいない。誰も座らせたことがない。荷物を置いても良いのだけれど、なんとなく置けずにいる。そこは彼女にしか、座ってほしくなかったから。
深夜の高速道路。
窓の外には濃紺の闇が広がっている。ハンドルの横に置いた缶コーヒーに口をつけると、すっかりぬるくなった苦いだけの液体が喉を滑り落ちていった。
彼女にはいつもカフェオレを手渡していた。大学で見かける彼女はいつも、カフェオレの白い缶を手にしていたから。缶を受け取った時の「ありがとう」と言う小さな声が懐かしい。
首を振り、運転に集中しようと前を向き直す。この時間は、対向車もほとんどいない。走っているのは自分の車だけで、なんだか世界に一人ぼっちになってしまった気さえする。
ひとりぼっち。孤独。
それが寂しいなんて、初めて感じた。彼女から離れて、初めて。
だってそれまで、自分はずっと孤独を求めて生きてきたから。
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