ハイウェイメモリー

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 幼い頃から、女の子同士のごっこ遊びが嫌いだった。嫌だと言うほど気が強いわけでもなく、黙って合わせられるほど器用でもなかった自分は、いつも渋々参加していた。  背が高く、年齢よりも大人びて見える自分はいつも『姉』や『母』の役を割り当てられた。嫌で嫌で仕方がなかった。たとえそれが、自分の本来の性別だったとしても。  どうせやるならば兄か父の役がよかった。女という性別が嫌いだった。自分は『女』ではない。そんな思いがずっと、ずっと、心の奥底にあった。  口に出したらきっと楽だったんだろうけれど、そうできない理由があった。その理由とはまだ、向き合えていない。  夜の高速道路は、余計なことばかり思い出す。唇を噛んでハンドルを切った。少し休んで、余計なことを頭から追い出したかった。  サービスエリアは人が多くて明るくて、自分には似合わない気がする。いつも人の少ないパーキングエリアばかり選んで車を停めた。今でも、それは変わらない。どれだけ見た目を変えようと、中身はなかなか変わらないものだ。  迷いなく男子トイレに入り、個室で用を足す。サービスエリアの方がトイレは綺麗で、それだけは少し魅力的だった。でも自分には似合わない。薄汚れているくらいがちょうどいい。  トイレから出たところで、自動販売機の横に置かれた灰皿を見つける。ポケットから煙草を取り出して、火をつけた。  息を吐くと、甘いような苦いような香りが辺りに立ち込める。煙の向こうに彼女が見えた気がして、慌てて目を閉じた。疲れているのかもしれない。
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