ハイウェイメモリー

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 そんな時に出会ったのが、彼女だった。  周りに怯えるように、花柄のワンピースを身につけていた彼女。ストールを巻いて、何かを隠すように、いつも背中を丸めて。誰の前でも決して声を出さないから気がついた。  俺と、おなじひとだ。  一人ではない、ということが嬉しかった。一人になりたくて家を飛び出したはずなのに、仲間を見つけたことが何よりも嬉しかった。  それでも、なかなか声をかけられなかった。同じだからわかる。いきなり「あなたも性別が体と中身で違う人?」だなんて聞かれて、はいそうですと言える人はおそらくいない。どうすれば良い。考えている時に、たまたま授業で彼女が隣に座った。忘れもしない、退屈な基礎工学の授業。  チャイムが鳴った瞬間に、息を吸い込んで話しかけた。 「じゃ、行くか」  我ながら、どうしてこんな訳の分からない言葉を口走ったのかわからない。どこに行くのかなんて決めてないし、これじゃ話しかけられたのかどうかも分からない。ちらりと彼女を覗くと、一瞬自分を見てからすぐに視線を落とした。  もう一度息を吸って、声が震えないように慎重に口を開く。 「来ないの?」  そう言うとようやく、彼女は顔を上げた。何かが通じあったように、彼女は真っ直ぐに自分を見つめる。 「行く」  チャイムに紛れて聞こえたその声は予想通りで、格好とはちぐはぐのバリトンが鼓膜を震わせた。  指先に痛みを感じ、煙草を足元に投げ捨てる。気づかないうちに、煙草は随分短くなっていた。ぎゅっと足の裏で火をもみ消す。  踏みつけられた煙草は、死んだようにぐちゃぐちゃになっている。そっと拾い上げて、吸い殻で溢れた灰皿に投げ込んだ。  過去の自分もあんな風に、簡単に捨てられれば良いのに。
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