9、あの子はクラッシャー系女子

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 新しい生活が始まったとはいえ、すべてがクリアになったわけじゃない。  優斗も乃愛も同じ会社にいるし、おそらく会うことはほぼないだろうけど、気にならないと言えば嘘になる。  実家からは相変わらず母が帰ってこいと連絡してくる。  ブロックしたい気持ちはあるけど、やっぱり母親と縁を切るなんてできなくて、こんな相反する気持ちで揺れている自分に苛立ってしまう。  ずっと心の中に重い石がドカッと居座っていて気分が悪い。  だけどそれも、千秋さんの顔を見ただけですっきりする。 「どうしたの? もしかして俺の顔を見て安心した?」  彼の発言はまるでハンマーで、私の重石を簡単に粉々に砕いてくれる。 「それ、自分で言うセリフじゃないですよ」 「わかるよ。俺の顔、いいよね?」  相変わらず話が通じねぇっ!! 「千秋さんも宇宙人かもしれませんね。違う意味で」  冗談っぽく笑って言ってみたら、彼は驚いた顔で私を凝視した。  なんとなく彼が何を言いたいのかわかるから、こっちから先に言ってやる。 「『どうしてわかったの?』とか言う定番のボケは要りませんよ」 「名前で呼んでくれた」 「えっ……?」  そっち??? 「だって名前で呼べって言ったじゃないですか」 「ああ、それは君を抱……」 「言わなくていいので!」  エレベーターにふたりきりでよかった。  誰かに聞かれたら恥ずかしい。  それにしても、優斗と言い、優斗母と言い、乃愛と言い、千秋さんと言い、私のまわりはなんでこんな変人ばかりなの?
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