9、あの子はクラッシャー系女子

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 私は人気のない場所に乃愛を連れていって問い詰めた。 「あなた、何なの? 朝は私の足を引っかけて転ばせたでしょ?」 「わざとじゃないです」  乃愛は真面目な顔してそんなことを言った。  私は怒りを通り越して呆れた。 「私は優斗と別れたの。だから、あなたに嫌がらせを受ける筋合いはないよ」 「嫌がらせだなんてひどい! わざとじゃないってずっと謝ってるのに、ひどくないですか?」 「どうやったらピンポイントで私のバッグにコーヒーぶっかけられるのよ?」 「混雑していたから仕方なかったんですう……ああぁ」  乃愛は本当に涙を流した。  見事な演技に開いた口がふさがらない。  彼女は女優になるべきだと思うわ。 「弁償しますからぁ……」  彼女はわんわん泣き出した。  バッグの表面は大丈夫だけど、問題は中身だった。  少し口が開いていたから中に沁みている。  正直いくらかもらうべきかなと思ったけど、たぶんこの子は絶対変なことをするだろう。  私から無理やり金をぶん取られたとSNSと会社の人たちに嘘を言いふらすかもしれない。  しかも、婚約者に捨てられた腹いせにやったと。  ここまで予想できたところで、平静でいるのが一番だ。 「私に近づかないで。あなたも優斗も私にはもう関係ないんだから」  そう言うと、乃愛はにんまり笑った。
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