9、あの子はクラッシャー系女子

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「やあ、こんばんは。遅くまでお疲れ」  マンションに帰宅するとエントランスで千秋さんとばったり出くわした。  ほんのり酔っている私とは違って、彼の表情はきりっとしている。 「お疲れさまです。こんな遅くまでお仕事ですか?」 「取引先と会食。そのあと知人と会っていたんだ」  わざわざそこまで教えてくれるとは意外だ。  私の反応がないせいか、彼が疑問を口にした。 「知人が誰か、訊かないの?」 「え? いや、だって私の知り合いじゃないでしょ?」 「君と初めて会ったバーの店長だよ」 「え? 知り合いなんですか。ていうか、なんで私にそんなこと教えてくれるの?」  軽い気持ちで訊ねたら、彼は真剣な表情で返した。 「君に俺のことをもっと知ってほしいから」  私は一瞬固まって、それから猛烈に顔が熱くなった。  ただでさえ酒で顔が熱いのに、これ以上熱を帯びたらクラクラするわ。 「それ、まるで私を知ってと訴える女子みたいですよ。かまってちゃんとも言う」 「知ってほしい!」 「わかりましたって」  謎のアピールすごいなーこの人。  でも、たぶんわざとだなと思っている。
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