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エレベーターに乗り込むと、彼は軽い口調で言った。
「今夜も泊まっていく?」
「は? いやいや、何さらっと彼氏みたいなこと言ってるんですか」
「そうか残念。また誘うよ」
「軽っ……」
エレベーターで10階に辿り着いたら、彼はにこやかに手を振って私を見送ってくれた。
なんだか拍子抜け。
「じゃあ、おやすみなさい」
「おやすみ」
そう言ってエレベーターの扉が閉まった。
なんだろう。急に寂しさが募ってきた。
あの誘いに乗っていたら何か変わっていたのだろうか。
「いや、何バカなこと考えてんの」
もし新しい人と付き合うなら、私の心がきちんとニュートラルになってからだ。
そうでないとまた失敗する。
優斗と同棲しようと思ったきっかけも、毒親の実家から逃れられるという理由だったから。
甘い言葉にすがりつきたくなるけれど、同じことを繰り返さないためにも、まずは自分の足で歩かないと。
だけど、もう少し気持ちが落ち着いたら、食事に行ってもいいかな。
なんて思ったりして、少し楽しみになってきた。
けれど、そんな日は来なかった――。
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