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「こんなリアルを見ていたら結婚なんてしたくないって思っちゃうんだよね」
美玲はそう言ったあとすぐ、慌てて付け加えた。
「紗那たちのことを否定しているわけじゃないのよ」
「わかってるよ。でも、美玲の言っていることはなんとなくわかる」
「紗那……?」
正直、まったく家事しないどころか母親の言いなりの優斗と結婚して、果たして幸せになれるのだろうかと思う自分もいる。
多くは望まないけれど、せめてストレスだらけの生活は避けたい。
「まあ、話し合ったほうがいいね。入籍する前に」
「そうだよね」
考えるとため息が出る。
けれど、別れたいとは思わないのだ。
5年も付き合ってきて、いい意味で自然体でいられるというのが大きい。
優斗は面倒なことから逃げるタイプだけど、上手く付き合えば穏やかに過ごせるし、束縛もないし、何より仕事しててもいいと言ってくれるから。
「落としましたよ」
いきなり背後から声をかけられて、紗那は顔を傾ける。
視界に入ったのは男性の手と自分のタオルハンカチだ。
ふわっと柑橘系の香りがした。
少し重めだが爽やかさもある大人の香水だと思った。
「あ、ありがとうございます」
礼を言って慌てて立ち上がるも、顔を見る前にその人は立ち去ってしまった。
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