1、私はただの家政婦ですか

11/17
前へ
/320ページ
次へ
 昼休みが終わりそうな頃、私たちはオフィスに戻る前にコーヒーを購入した。美玲はどうやら先ほどの(たぶん)イケメンらしき男性のことが気になるようだ。 「総務の子に聞いてみる。私の予想だとグループ会社から来た人だよ」 「詳しいね」 「噂で聞いたのよ。もしフリーだったら頑張ってみよっかな」 「応援してるわ」 「ありがと!」  美玲と別れて私は自分のオフィスへ向かうためにエレベーターに乗った。  ちょうど昼休みから戻る人たちでぎゅうぎゅうになる。  エレベーターが閉まりそうなとき、若い女子社員が乗り込んできた。 「すみませーん、乗りまぁーす!」  女子社員は無理やり身体を押し込んできて、全員がうしろへ下がる。 「……ったく、次にしろよ」  誰かの声が背後から聞こえてきたが、周囲はただ黙ってこの時間が過ぎるのを待っているようだった。  次の階でエレベーターが停まり、一気に数人が降りていく。  その際、女子社員は押されて転んでしまった。 「大丈夫?」  手を差し伸べると、女子社員はえへへへっと頭をかきながら派手にネイルをした手で私の手を掴んだ。 「派遣の扱いってこんなんばっかなので慣れてまーす」  やけに明るい女の子だなあと思った。  彼女は「ありがとーございまーす」と言って自分の仕事場へ向かった。  エレベーターが静かに閉まった。
/320ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8262人が本棚に入れています
本棚に追加