13、これで本当にさようなら

6/20
前へ
/289ページ
次へ
 優斗父は薄ら笑いを浮かべながら私を見下すようにして告げる。 「だいたい、たかが恋人同士のいざこざに弁護士とは、冗談にしては馬鹿げている。紗那さんはあまりに非常識な方だな」  非常識はどっちなの?  私が反論しようとしたら、優斗が先に口を出した。 「俺は悪くない。紗那と別れるつもりもない。けど、紗那が謝らない限り俺は許してやるつもりはない」  一体どうしろと言うのだろうか。  話が通じなさ過ぎて頭が痛くなってきた。  どう返せばいいか考えていると、川喜多さんが冷静に彼らに訊ねた。   「そうですか。では裁判に進めてよろしいですね?」 「は? 裁判……?」  優斗がぽかんと口を開けて呆気にとられた。  川喜多さんは淡々と話を続ける。 「あなた方はどうもまともに会話ができないようだ。これ以上の話し合いは無駄なようですから、法廷で解決が望ましいでしょう」  裁判というパワーワードに過激に反応したのは優斗母だった。 「バカなことを言わないで! こんな些細なことで裁判ですって?」 「些細なことではありません。紗那さんは婚約中にパートナーの優斗くんに不貞されたあげく毎日のように暴言を受けた。充分価値のある事例です」 「こんなことで裁判起こすくらいなら、もっと大事なことがあるでしょ! 窃盗や殺人の犯罪者を裁きなさいよ。優斗は何の犯罪も起こしていないのよ!」  激しく罵倒する優斗母に向かって、川喜多さんはまったく微動だにせず、さらりと返す。 「無関係な事例を出して論点をすり替えるのはおやめください」
/289ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6385人が本棚に入れています
本棚に追加