13、これで本当にさようなら

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 優斗父が焦りながら声を荒らげる。 「いい加減にしないか! これ以上他人に恥を晒すんじゃない!」 「あたしは誰よりも世間体を大切にしてきたわよ! あなたのお母さんの命令どおりにやってきたわよ!」 「それとこれとは関係ないだろう? 家のことを他人の前で話すなと言っているんだ」  優斗母は再びぎろりと私を睨みつける。 「紗那さんだけずるいわよ。あなたが被害者ヅラするなら、あたしだって被害者だわ」  優斗母は怒りの形相で和室を出て、しばらくすると包丁を持って戻ってきた。  その姿に全員驚愕し、優斗は慌てふためいた。 「母さん、何やってるんだ!」 「紗那さん、あなたのせいでうちの規律が乱れたのよ。ここで死んでやるわ!」  意味がわからない。私はどう反応したらいいか判断できず、ただ固まってしまった。  すると優斗父が手を伸ばし、優斗母の腕を掴んで揺らした。 「馬鹿なことをするな!」  三人が大騒ぎしていると、かしゃりと乾いた音が響いた。  川喜多さんが包丁を手に暴れる義母の姿を冷静にスマホで撮影したのだ。  それを見た優斗父がさらに慌てた。 「あなた、何をやっているんだ?」 「お母さまの狂乱ぶりを証拠として収めておこうと思いまして。もし依頼者の紗那さんが怪我をするようなことがあれば速やかに警察に届け出ることができますから」   淡々と告げる川喜多さんに私はもう開いた口がふさがらなかった。
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