13、これで本当にさようなら

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 山内家を出て、すっきりしたかといえば、そうではなかった。  優斗が泣きついてくることは多少想定していたけれど、いざそれを目の前にすると心が揺らいだ。  別に彼に情があったわけじゃない。もう好きでもない。  けれど、付き合った5年間はなかったことにならない。  楽しい時間は確かにあった。幸せを感じた瞬間もあったし、一生一緒にいようという気持ちもあった。  泣きつかれると絆されてしまうかもしれない弱い心がまだ私にはある。  それでも私が最後に優斗を突き放すことができたのは、まわりの支えがあったからだ。  さようならを口にしたとき、複雑な気持ちだった。ようやく解放されるというのに、晴れ晴れした気持ちにはなれなかった。 「紗那!」  遠くから呼びかけられて振り向くと、千秋さんが息を切らせながら走ってきた。 「え? 千秋さんどうしてここに?」  私のその問いに答えたのは川喜多さんだ。 「彼とは通話状態でしたから」 「まさか、ずっと私たちのやりとりを聞いて?」  その返答を聞く前に千秋さんが私に抱きついてきた。 「よかった無事で。君に何かあったかと思ったよ」  ああ、なるほど。  優斗母のご乱心のことだと思った。
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