13、これで本当にさようなら

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「あの、やっぱり安心したらお腹がすいてきました」 「そっか。何が食べたい?」 「ん-っと、お刺身とか海鮮丼とか、魚が食べたいなー」  居酒屋に出てくる刺身盛り合わせが頭に浮かんだのでそれを口にしたら、千秋さんは「了解」と言って車を車線変更して右折した。 「銀座で寿司を握ってもらおう」 「え? 違う。そんな……」 「大丈夫。刺身の盛り合わせも作ってくれるんだよ」 「それめちゃくちゃ高いでしょ」 「日本の魚は美味いよなあ」 「話聞いて……わっ」  千秋さんはいきなり左手を伸ばして私の髪をくしゃくしゃを撫で回した。 「元気出た?」 「……はい」 「そう、よかった」  撫でられた頭にそっと手をやってその感触の名残を感じながら私の胸中はドキドキしていた。  私はたぶん、千秋さんのこと、結構好きかもしれないって、このとき少し自分の気持ちに気づいたのだった。  だけど、気づいてはいけなかったのかもしれない――。
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