14、一難去ってまた

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「いいのよ。紗那はまず心を休めることが必要だわ。せっかく自由の身になったんだから、思いきりひとりを謳歌して、それから考えてみてもいいんじゃない?」  そういえば、ひとりを謳歌するなんて大学以来だ。  実家暮らしのときは母親、そのあとは優斗とずっと誰かの世話をし続けてきたから。自分のために生きるなんて考えたこともなかった。 「そのあいだに彼に別の相手ができるかも」  なんて冗談で言ってみたら、美玲が呆気にとられた顔で「ないない」と手を横に振った。 「彼、紗那にベタ惚れみたいだから、そう簡単に逃げたりしないわよ」 「ええ? そんなことないよ」 「紗那はわかってないなー」  美玲はくすくす笑って料理に箸を伸ばした。  テーブルには海鮮サラダにサーモンの生春巻き、グリルチキンの香草焼きやカレー風味のコロッケなどが並ぶ。 「さ、食べよ。ここの料理は美味しいのよ」 「うん」  美玲は小皿にサラダを取り分けて私にくれた。 「美玲、あの……ありがとね、いろいろ」 「なぁに? 急に」 「だって美玲がいなかったら私、会社にいられなくなっていたかも」 「あたしは紗那の一番の理解者よ。なんでも相談して」 「うん」  美玲も私と同じ、家族のことで苦労して育ったから気持ちをわかってくれる。こんなにいい同僚に出会えて私は幸せだと思う。
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