14、一難去ってまた

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「紗那、どうしたの?」 「え……あ、うん」 「何見て……え?」  美玲もわかったらしい。千秋さんの姿を目にした瞬間低い声を洩らした。  乃愛は満面の笑みを千秋さんに向けながら、彼にくっつくようにして歩いている。千秋さんはいつもの冷静な様子で穏やかな笑みを浮かべながら乃愛の歩幅に合わせている。 「あれ、派遣の子でしょ? どうして月見里さんとあの子が一緒にいるの? いやいや、おかしいでしょ。紗那と交際宣言して別の女と一緒にいるって」 「どうなんだろね。私のほうが演技かもしれないよ」  私は動揺しすぎて鼓動がどくどく鳴り響き、なんとか平静を装って声を発した。 「だって、なんであの子なのよ。紗那を苦しめたのに」 「あーたぶん、彼はあの子が優斗の浮気相手だって知らないかも」  乃愛の話はしたけれど、証拠写真は川喜多さんに直接送ったし、千秋さんは顔を知らない気がする。 「だとしても! 紗那に好意を寄せているようなそぶりを見せながらおかしいでしょ」  美玲は怒りの形相でふたりのあとを追いかけようとする。それを私が制止した。 「ちょっと美玲」 「抗議してやるわ」 「待って待って! 何か理由があるのかも」  次の瞬間、ふたりはホテルに入っていった。  それを見た私たちは放心状態で、しばらく硬直していた。
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