14、一難去ってまた

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 千秋さんは驚いて目をみはり、私に伸ばした手をゆっくり引っ込めた。 「あ、すみません」 「いや、こちらこそ。ごめん」  何の謝罪? 勝手に触ろうとしたこと?  それとも、他の女と関係を持ちながら私を慰めるために抱いたこと?  もう私の頭の中はぐちゃぐちゃで、冷静な思考が保てない。このままだと彼に八つ当たりしてしまいそうだ。 「最近、疲れがたまっていて……少し、ひとりになりたいんです」 「そうか」  あまりにあっさりした反応で、それが余計に私の心を虚しくした。  目頭が熱くなり、涙がこぼれそうになる寸前で、私は彼から顔を背けた。斜め下に視線をやりながら、早口で告げる。 「休暇を取ろうと思っています。ひとりでのんびり旅行でもしようと思って……」  とっさについた嘘だけど、それを聞いた千秋さんは意外とすんなり聞き入れた。 「それがいいね。ゆっくりするといい」  そんな言葉が聞きたいわけじゃないのに。  今は彼のその言葉はあまり優しいとは思えない。  だけどこれは私の身勝手な感情だから、どうにか堪えた。 「いろいろ、ありがとうございます。じゃあ、おやすみなさ……」 「紗那!」  私がぺこりとお辞儀をしたら、千秋さんが急に私を抱きしめた。  急なことでわけがわからなくなり、硬直した。
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