14、一難去ってまた

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「ずっと感謝しています」 「あ、ああ……」  彼は拍子抜けしたような顔をした。  私はどうにか冷静に話す。 「少し心が落ち着いたら、いろいろ話したいと思います」 「そうだね。とりあえず今はゆっくり休んだほうがいい」 「はい。ありがとうございます」  私は涙を拭い、笑顔で彼に挨拶をした。 「じゃあ、明日は早いでしょう? 私も休みたいので」 「わかった」 「おやすみなさい」 「おやすみ」  千秋さんはまだ私に何か言いたいことがあるような顔をしていたけど、私のメンタルがもたないので、早々と帰ってもらった。  彼を見送ってから玄関ドアに鍵をかけると、私は力が抜けたようにその場にしゃがみ込んだ。  大丈夫、大丈夫。落ち着いて。  千秋さんは乃愛と付き合っているわけではないんだから。きっと知らずに関係を持っただけだ。もう少し私が冷静になれたら、乃愛のことを話そう。  千秋さんは何も悪くない。  何度も何度もそう言い聞かせるのに、涙が止まらなくて、私は玄関に座り込んだまま嗚咽を洩らしながら泣いた。
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