15、誰も信用できない

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 千秋さんは一週間ほど海外出張に行っている。  彼と会えないのを残念に思うどころか、私は少し安堵していた。  会社に行けば針のむしろで、私は息をひそめながらやるべき仕事だけをして定時になればすぐに帰宅した。  5日くらい休暇を取ることを検討している。  実家に帰る選択肢はない。  だけど、他ならどこでもいい。誰も知らない場所へ行ってひとりでゆっくりしたい。温泉に行ってもいいかもしれない。ホテルステイでも構わない。それくらいの貯蓄はある。  美玲にだけは旅行をすることを伝えた。すると彼女は自分も休みを取って一緒に旅行しようかなと言った。だけど、それも断った。  美玲には悪いけど、とにかくひとりになりたかったから。  その日はめずらしく残業して、暗くなってからオフィスビルを出た。いつも通り寄り道せずにまっすぐ帰宅するつもりだった。  駅へ向かう途中、路地に入っていく乃愛の姿を見つけた。  一番見たくない顔を見てしまって胸の奥がもやもやしたけど、ふと気づいた。以前、乃愛と千秋さんを目撃した場所に近いということに。  ああ、きっと乃愛はまた別の男と遊ぶんだと思った。なぜなら千秋さんは今、出張だから。  でも、もし出張が嘘だったら――。
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