3、見知らぬ男と過ごした夜

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「どうして男はセーブできないんですか? 下半身で生きてるんですかね?」 「君、相当酔ってるね」 「だってこの世は不貞する男であふれているじゃないですか」 「女にもいるよね」 「ていうか、外で他の女抱いてるくせに家でもやりたいとかサルですか。サルのほうが賢いわ!」 「ちょっと声が大きいね」 「毎日フルタイムでお前の世話をやってるのに同居したらお前の母親と祖母の面倒も見るとか私それ奴隷生活まっしぐらだよね」 「苦労してるんだね」  酔った勢いでべらべらと下品なことを口走ってしまったが、どうせ二度と会わない人だ。  これでもかと愚痴をこぼした。  カウンターテーブルの向こうではバーテンダーが笑顔を崩さない。 「わかってくれます? あなたも心得ておいたほうがいいですよ。女に働かせるなら家事もやるの当たり前なんで。令和ですからね。60代の常識なんか今は通用しませんからね」 「そうだね。心しておくよ」  私の話を聞いてもまったく動揺を見せず、明るく励ましてくれるようなこともせず、彼はただ静かに聞いている。  めずらしいタイプだ。  おそらく年上だろう。雰囲気から三十路を過ぎているくらいかなと。  優斗とは真逆のタイプだと思った。
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