3、見知らぬ男と過ごした夜

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「男の人ってみんな、付き合う前は優しい言葉をかけてくれるんですよ。釣った魚には餌をやらないの。手に入れたとたん豹変して、こっちがぼろぼろになるまでこき使われるんですよ」  カウンターテーブルの向こうの酒瓶がずらりと並んだ棚を見つめながら深いため息をつく。  すると男が私の話を遮った。 「ねえ、ごめん。ひとこといい?」 「はい、何でしょう?」 「君の男を見る目がないだけじゃない?」  にこやかな表情で穏やかにそう言われて、私は返す言葉が見つからなかった。 「そういうのに引っかかってしまったのは不運としか言いようがない。だからこそ今から軌道修正すればいいよ」  簡単に言ってくれる。 「私、婚約しちゃってるんですよ。相手とは同棲してて、別れるならこれから引っ越し先を探さなきゃいけなくて」 「とりあえず実家に戻ったら?」 「親はちょっと毒入ってるし、兄を溺愛してるから実家なんて絶対帰りたくないんです」 「そうか。うん……じゃあ、俺のマンションに来る?」  突拍子もないことを言い出した男に対し、私は目が点になった。
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