3、見知らぬ男と過ごした夜

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「ありきたりな口説き方ですね」 「まあ聞いて。俺の親戚が所有しているマンションだから、空きがあるか聞いてあげることもできる。家賃も交渉次第で安くできるよ」  家賃を安く……。  少しその気になったけど、すぐに我に返る。 「すごい疑問があるんですけど」 「うん、何?」 「あなた、私と初対面ですよね? どうしてそこまでしてくれるですか? わかった。傷心の女につけこんで遊ぶつもりですね?」 「酔ってるわりに冷静だな」  男は少し困惑の表情を見せたあと、落ち着いた口調で言った。 「こうして話すのは初めてだけど、実は君のことは知ってる。同じ会社だろう」 「うそ。私、知らない。だいたい、あなたみたいな人がいたら絶対目立つでしょ」 「このあいだ、君が落としたハンカチを拾ったよ」 「え? あ、あー……あの人?」  いや、でもそれだけで顔を覚えているもの?  この人、あのとき私の顔なんて見ていないはず……。  疑いの目を向けると、男はわざわざ名刺を見せてくれた。  たしかに同じ会社名だけど、なんか違う。  彼はグループ本体の人間だった。 「エリート組じゃないですか! うわ、なんかすみません。私さっきから失礼なことを……」 「これで身元は証明できたよね? それ、あげるよ」  私は受け取った名刺を数秒凝視した。 【月見里千秋】 Chiaki Yamanashi
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