3、見知らぬ男と過ごした夜

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「やまなしさん? めずらしい名字ですね」 「よく言われるよ」 「アルファベット表記ないと読めなかった」 「こういうとき英語は役に立つよね」 「え、ええ……」  会話は苦手なんだけど。 「で、月見里さんはどうしてうちの会社に? 出向ですか?」 「そうだよ」  彼はにこやかに答えた。 「でも最近ですよね? あんまり見かけたことないし」 「そう。半年前に海外事業部から戻ってここに配属されたんだよ」  海外にいたエリートがわざわざグループ会社に出向?  何か大きな失敗でもしたのかしら?  いや、でも必要な人事ってこともあるし。  何か責任を伴うプロジェクトに関わっているのかもしれない。 「これで素性がわかったから安心だろう? これから社内で会うこともあるだろうし、よろしくね」  うーん、解せない。  なぜハンカチを拾ってくれた人が私にこれほど親切にしてくれるのか。  でも、まあ引っ越し先の候補のひとつとしてありがたく話を受けておこう。 「ありがとうございます。ぜひ一度そのマンションの見学をさせてください」 「いつでもいいよ。じゃあ、その番号に連絡して」  彼は名刺を指差してそう言った。  私は「はい」と返事をした。  うっかり話し込んでしまって、スマホを見たらすでに深夜1時過ぎ。  終電逃してるのはもうわかってるからタクシーで帰るか、どこかのビジネスホテルにでも泊まるか。  そんなことを考えていたのだけど、予想外のことが起こってしまった。
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