3、見知らぬ男と過ごした夜

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「今からでもぜんぜんいいよ」 「何がですか?」 「わかっているくせに」  彼はベッドに腰を下ろしてわざわざ顔を近づけてきた。  なので、少しあとずさりする。 「でも、今何時……」 「朝の5時。まだいいだろ?」 「ええっと、会社行かなきゃ」 「休めよ」 「他人事だと思ってそんなことを!」  あなたの仕事については知りませんが、私は今まさにやるべきことが山ほどあるんですよ。  などとこちらのことを言っても仕方がない。 「すみません。酔った勢いでいいやって思ったんですけど、冷静になってみたら私まだ彼氏と別れてないんです。これ不貞になりますよね?」 「未遂だよ。まあ、今からクロにしてもいいけどね」 「いやいや、帰ります。いろいろ整理しなきゃいけないこともあるし」 「そっか、残念だな」  うん? やっぱりこの人やりたいだけなんじゃ……?  結局、彼とはその場で別れ、私はひとり駅に向かって歩いた。  夜明け前の薄暗い空を見上げながら、これから起こるだろう面倒事を想像したら頭痛がした。  いや、この頭痛は二日酔いだ。  でも、なんか、気持ちは晴れ晴れしていた。
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