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「だいたいこんなところでやけ酒している女性は彼氏と何かあったか、仕事で失敗したか、選択肢は限られてくるよね」
「……そうですね。で、あなたはなぜおひとりでこんなところに?」
見透かされるのが嫌なので、嫌みっぽく返してみたら、彼はまったく動じることなく返した。
「今夜、ここに来なければならないような気がしたんだ」
私から視線をずらし、真剣な面持ちでそんなことを言い放つ彼に、警戒心が倍増した。
あ、やばい。この人、痛い人かもしれない。
経験上、顔のいい男はだいたい性格に問題があるって、嫌というほど知っている。
「一緒に飲まない?」
完璧すぎる笑顔にやられてしまった。
警戒心が急速に減っていく。
どうせ、今夜だけの付き合いだ。
二度と会うこともないだろう赤の他人だから。
同じカクテルを彼が注文して「乾杯」とグラスを当てたときに、ふわっと柑橘系の香りがした。
爽やかなのにどこか強烈に惹きつける不思議な香り。
これ、どこかで……。
とは思うものの、頭がまわらず思い出せなかった。
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