5、 マザコン彼氏に別れを告げた夜

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「とりあえず鍵は渡すけど、寝る場所だよな」 「大丈夫です。これから布団屋に行ってきますから」 「もう閉まってるよ」  月見里さんは21時が表示されたスマホ画面をわざわざ見せて言った。 「じゃあ、ホテルに泊まります」 「どうして俺を呼んだの?」 「え……あ、ごめんなさい」  そうだよね。別に呼びつける必要なかったよね。  恥ずかしい。もう自分の愚かさに泣きたい。  目を合わせることもできずにうつむいていたら、彼が私の頭を撫でた。 「謝るところじゃないよ。俺が必要だから呼んだんだろ?」 「えっ……」 「ごはんまだ?」 「……はい」 「じゃあ、行こう。肉でも食って元気になろう」  彼は私のスーツケースを奪ってさっさと歩き出した。  慌てて彼のあとを追う。 「あの、それ私の荷物なので」 「飴ちゃんでも食べていればいいよ」 「はい?」  彼は真顔でさっさと歩いていく(歩幅が大きいのでついて行くのが大変)  なんだかよくわかんない人だけど、励ましてくれているのだけはわかる。  嬉しくて頬が緩んだ。  しかし、彼はぴたりと止まって振り返るとぼそりと言った。 「あ、そっか。君、足が短いんだね」  真面目な顔してそんなこと言われてせっかくの感謝の気持ちが崩壊した。 「余計なひとことですよ!」
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