6、つかの間のなごみ

4/11
前へ
/314ページ
次へ
 洗面所を使わせてもらってから戻るとすべてが完成していた。  彼は私の目の前にミルクたっぷりのコーヒーが入った大きなカップを置いた。 「さあ、食べよう」 「いただきます」  カリカリに焼いた目玉焼きの表面にフォークをザクっと入れると中からとろりと黄身があふれた。  ああ、こういうの絶対おいしいやつだ。  彼は何段ものパンケーキにたっぷりのメイプルシロップをかけてナイフでカットすると、私の皿に盛りつけてくれた。  細かい気配りが最高すぎる。  してもらうってこんなに幸せなことなんだ。  いつも、私が優斗にしてあげる立場だったから、こんなの初めて。 「月見里さん、家事スキル高いですね」 「そんなことないよ。フツーだよ」 「でも、部屋だって埃ひとつないし、すごいですよ。仕事しながらここまで綺麗にできません」 「ああ、掃除はしないよ。週に一回掃除してくれる人が来るから」 「え?」  ま、まさか。優斗と同じパターンかしら?  私が寝込んでいたとき、家事できない優斗が困って母親を呼びつけていたから、そんな苦い記憶を思い出して複雑な気持ちになる。  恐る恐る訊いてみた。 「そうですか。お母さんですか?」 「いや、ハウスキーパーだよ」  そっちかーい!!  でもなんだろう。ものすごく今、謎に安堵している。
/314ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7481人が本棚に入れています
本棚に追加