7、毒にやられまくった日

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 報告すべきことを終えたので長居は無用だ。  いまだ怒りが静まらない母をリビングに残して私はさっさと玄関で靴を履いた。  すると父が慌てて出てきた。 「紗那、母さんはなんとか説得しておくから……」 「もういいよ。住むところは見つかったから」 「ああ、そうか。じゃあ……」  安堵したように笑みを浮かべる父に向かって、私は言い放つ。 「場所は教えないよ」 「え?」  父はあからさまに困惑の表情になった。  私は今までずっと言いたくて仕方なかったことを口にした。 「ねえ、お父さん。どうしてお母さんと離婚しないの?」 「え? そ、それは……ほら、母さんは俺がいないとだめじゃないか」  父は母に逆らうことができず、八つ当たりされてもずっと我慢してきた。  自分が我慢すれば丸く収まるからだ。  私も父に似て、自分さえ我慢すればとりあえず収まると思ってやってきた。  けれど、誰かが我慢し続ける関係は、うまくいくはずがないんだ。  父はとても優しかった。  母に怒鳴られた私にこっそりお菓子をくれたり、テストでいい成績を取れば褒めてくれた。  ただ、それだけ。  父は決して私の味方になってはくれない。  結局、母の機嫌を取ることばかり気にしているのだから。 「お父さん、私もう我慢するのやめたの」 「紗那……」 「どんなに親不孝って言われてもいい。ごめんね。じゃあ」  私がそう言って出ていくとき、父は何も言わずにうつむいた。
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