8、解毒されました

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 月見里さんはきょとんとした顔をした。  つかの間の無言が続き、ハッとした私は慌てて言い訳を口にする。 「ごめんなさい。冗談。忘れてください」 「いいよ」  耳を疑うような言葉が彼から発せられて、思わずじっと見つめてしまった。  彼は冷静な顔でこちらを見つめている。 「い、いや……えっと」  自分で言っておきながら猛烈に恥ずかしくなった。  すると、彼はまさかの両手を広げてみせたのだ。 「はい、おいで」 「えっ……?」 「来ないならこっちから」 「あ、あの……」  それはあまりにスムーズな動きだった。  彼はまったく遠慮なく、さらりと恋人にするように、私の腕を引いて自分に抱き寄せたのだ。 「や、まなしさ……」 「ファーストネームで呼ぶことを許可しよう」 「はい?」  何を言っているんだろう、この人。  それにこの体勢……。  彼は私を抱きかかえたままソファにもたれ、私は上から抱きつく格好になった。 「君の泣き顔、わりと好きだな」 「何言って……ひゃっ」  彼は私の髪を撫でながら指先で耳を触った。  ぞくりとして思わず変な声が洩れてしまった。  やっぱり手馴れているところが遊び人な気がする。 「ねえ、呼んでみて。千秋って」 「いきなりそんなの……」 「紗那」  突然名前呼びされてどきりとした。  同時に顔が燃えるほど熱くなった。  これはきっとお酒による相乗効果に違いない、と思いたい。
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