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歩き出してしばらくすると、理沙さんが言った。
「鳴瀬君は、ご両親と仲いい?」
「え?うーん……まあ、良くもないけど、悪くもないと思います」
「そっか。偉いね。あたしは喧嘩ばっかりで」
溜息をつく様子は意外に思えた。
この人なら家族ともうまくやれそうに見えていたからだ。
「喧嘩って、たとえばどういう……」
言いかけ、年上の社員さんだということを思い出す。
「すいません。変なこと聞いて。今の無しで」
理沙さんは笑って言う。
「別にいいよ。鳴瀬君は、普段は人の詮索するようなこと言わないでしょ。聞かれるようなこと話したのはあたしだから」
「……スマセン」
「母が、早く結婚しろってうるさくてね。相手は居るんだけど、親に紹介できる人でも婚姻届け出せるような人でもないから、親は知らなくて」
そこで、俺の頭には前に見かけた四十代くらいで渋い印象のサラリーマン風の男が浮かんだ。
本屋の客としてもよく見かけるし、仕事中にこの人が接客してるのを何度か見て、妙にしっくり来てるというか……もしかしたら、みたいな印象を受けたことがあった。
「しばらく落ち着いてたんだけど、親戚のあたしより年下の子が第2子産むことになったらまた焦っちゃったみたいでね。で、新年早々、絶縁状態」
「……大変すね」
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