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蠱惑Ⅱ『猫ふんじゃった』
特に猫が好きではありませんでした。父が死に母が死に、叔母が死んでこの家には私一人になりました。私は二度所帯を持ちましたが、二度とも妻に逃げられて10年前に実家に戻って来ました。一度目は仕方ないと諦めましたが二度も逃げられると両親に報告するのも恥ずかしく、また両親も報告を受けることが恥ずかしいとあまり話題にもならずに暮らして来ました。
最初に猫を持って来たのは叔母でした。叔母は自分もそう長くないから一人きりは寂しいだろうと子猫を貰ってきたのでした。まだ目が開いたばかりの子猫に玉と名付けました。玉は叔母に可愛がられていました。叔母が死んだときは棺の上に乗って泣いていました。
「玉、遊んでおいで」
私には慣れない玉でしたが、ペットの猫は人から餌をもらわなくては生きていけない。どら猫のように鼠を追い掛けたり、魚屋から盗んだりと器用には生きていけない。ですから餌をねだる時だけ私に愛想泣きをするのでした。叔母が死んで一年後に玉は一匹の猫を連れて帰りました。大きな猫で大と名付けました。
「お前はどこの子だ?」
やはり私になれることはありません。玉は出入り自由ですがその猫を家に上げることはしませんでした。
「駄目だ、お前は」
玉の後について家に入ろうとする猫に石を投げて脅しました。それでも毎日来ては縁側に上り日向ぼっこをしています。雨の寒い日でした。縁側の内と外で玉と大はにらめっこをしていました。大は寒さで震えています。
「ほら、今日だけだよ」
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