蠱惑Ⅱ『猫ふんじゃった』

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「どうすればいいでしょうか?私は仕事もしていません、僅かな年金暮らしです。あなたの請求に応えることは出来ません。その代わりお嬢さんを引っ掻いた猫は特定出来ます。仕返しをしてください」  私が二階に案内すると言うと、父親は気味悪がって帰ってしまいました。うちに猫がたくさんいるのが、近所でも噂になり、猫好きのおじさんと渾名までついてしまいました。それはいいのですが困ったことにもなりました。うちの庭に段ボールに入れた子猫を捨てていくのです。 「困るんですけど、何とかならないでしょうか」  私は役所に行き捨て猫の保護を訴えました。 「ああ、あなたは本町にお住いの通称猫好きのおじさんですね。存じ上げています。どうでしょう、私どもで引き取ると殺処分となります。それでも良ければ手続きいたしますが可哀そうですよね、猫好きのおじさん」  調子のいい担当に世辞を言われその気になってしまいました。私は子猫の入った段ボールを持ち帰りました。子猫を外に置きっ放しにするわけにもいかず、母の部屋に入れました。ドアを閉めて他の猫が立ち入らないようにしました。しかし縄張り意識と言うのでしょうか、玉と大、その子等が騒いでいます。まさか噛み殺すことはないだろうとドアを開けて解放しました。玉がすぐに五匹に寄り添い舐め始めたのです。私は玉の母性本能だと安心しました。役所でのやり取りが美談となり私は猫から離れることが出来なくなりました。猫の餌が二トン車で届いたこともあります。幼稚園の散歩コースにもなりました。園児が猫に手を振るのは実に可愛い。しかし微笑ましい事だけではありませんでした。手に余した飼い主はうちの庭に捨てていくのでした。猫だけではありませんでした。ウサギや子犬を捨てていく人もいます。二階の二間を猫部屋にしていましたが下の二間も占領されてしまいました。私がいるのはダイニングキッチンで、寝る時はテーブルを端に寄せて、布団を縦に半分に折って床としていました。このキッチンを占領されればもう私の居場所はありません。出入りする時も隙間から侵入を窺う猫を蹴飛ばして牽制しています。    
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