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隼人とは同じ大学で知り合った。遊び中心サークルの数少ないゲイだった。皆にゲイだということを打ち明けてはいないが毎日楽しそうで、明るかった。俺は高校の頃に自分がゲイだと気付いて悩み、ほかの奴らと違うつらさを大学にも持ち越していた。
「あんたさ、気楽そうに見えるけど自分がゲイで悩んだことないの? 俺は分かったのが二年前だけど、いまだに戸惑ってるよ」
たまたま二人きりになった部室でそう言うと、隼人は不思議そうにこちらを見た。
「湊君、それって悩み相談?」
「……そっか、これじゃ絡んでるみたいだよな、ごめん。俺、隼人に会ってからあんたみたいになるにはどうすればいいのかって思ってたんだ」
「僕だって、どうして皆と違うんだろうとは思ったよ。でも人と比べてばかりだとつらくなるって思ったんだ。幸せはテストみたいに、何点って分かるものじゃないから」
「そうだな……」
それくらい分かってる。だけどどうすれば幸せになれるのか分からない。今はただ苦しいだけだ。そう打ち明けると、隼人が乗り出した。
「湊くん、もっと自分を肯定してあげなきゃ。ゲイだからって、それでだれかに迷惑掛けたわけじゃないでしょう? きみはずっと自分自身を隠すことで守ってきたけど、そろそろ解放してあげてもいいんじゃないかな」
「解放?」
「自分で自分を認めてあげること。ゲイの自分を否定しないことだよ。だれかに公言しなくてもいいけど、僕に打ち明けてくれたのは嬉しかったな。もしかしてだれかに言ったの、初めてだった?」
柔らかな笑みでそう言われ、大学生活で初めて心を許せる友人が出来たのだと分かった。その後付き合うことになったのは自然な流れだった。大学四年生になり、隼人の就職先が関越地方になったと聞いても、別れる気にならなかったくらいだ。はじめのうちは二か月に一回、そのうち大型連休のときはどちらかの家で過ごすようになった。今はこんなだけど、俺がやってるライターの仕事が完全にリモートワークになったら、隼人のところで生活できればといいと思っている。
「けど、こっちの冬は雪深いんだな……」
消化している映画は沖縄の夏を描いていて鮮やかだ。ハイビスカスの赤に、透明に近い青い水面、ガジュマルの緑。ソファで眺めていると隼人が隣に来た。
「僕もこっちでもう一回見ようかな。隣、座るよ」
沖縄の景色を見ていると、ふと左手に温かいものがふれた。隼人の手だ。
「隼人……」
視線をテレビに向け、鼻歌でも歌いそうな顔をする恋人を見て、思い出した。
こいつ、そういえば関西の南のほう出身だったな。たまたま会社の都合で寒いところに配属になっただけで、冬だって好きじゃなかったはずだ。
『僕だって不安なんだよ』
玄関口で聞いた隼人の本音が甦る。大雪で困っているのは俺だけじゃない。もし除雪車が来なかったら、食料がもたなくなったら、停電でもしたら。心配しはじめたらキリがないくらいだ。
隼人に包まれてる手を、キュッと握り返す。
「さっきは悪かったな。お前だって同じ状況なのにあたっちまって」
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