ジャグリングとの出会い

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ジャグリングとの出会い

 大学一年、春。  大学の敷地内では、学内を浮遊する新入生をターゲットに、目を皿にした先輩方による新歓(=新入生歓迎)トラップが張り巡らされています。  ちょっとベンチに腰かけてキョロキョロしたりしようものなら、どこからともなく現れるチラシを持った勧誘人。  男女問わず、「今日はなにか予定ある?」とナンパさながらの声かけをされ、迷う素振りをみせるが最後「授業終わったらここに来てね」もしくは「これから行こう」とサークルのテリトリーに拉致されます。  それに対して、しめしめとついて行く新入生。サークルの見学のあとの、先輩に奢ってもらえる晩ごはんが目当てです。  つまりは、ウィンウィン。むしろ、ごはん代が浮く新入生側にメリットが大きい。  大学時代は寮生活だった私は、入学当初から寮には先輩がいるありがたい環境でした。右も左もわからずに始まる見知らぬ土地での大学生活。寮の先輩に、いろんなことを教えてもらいました。  そのなかのひとつの教え――新歓期間は寮で晩ごはんを食べるな。  つまり、誘われた新歓にはホイホイ付いていけ!ということです。  その教えを忠実に守り、新入生ホイホイされる私。勧誘が盛んなのは体育会系もしくは派手系サークルが多いので、柄にもないテンションで、ごはんをごちそうになる毎日。  もともと盛り上がる場が苦手な私は、二週間も経ったころにはもう、へとへと。残ったのは満たされたお腹とくたくたの身体でした。  そんなある日。今日はホイホイされずに帰ろうと決意しながら、クラスの友達と学食でお昼を食べていました。  ガラス張りの窓の外をふと見ると、ぽんぽん空を舞う白いボール。  一人の男の人の後ろ姿が、五つのボールを投げていました。  ――なにあれ、すごい。  その魅力に引き寄せられ、昼食を済ませたあと現場へ向かいました。  いろんな道具を器用に操る数名の先輩たち。遠くから様子をみていると、その中の一人に気づかれ手招きされました。  快く披露される凄技の数々。そして、ガツガツしていない勧誘スタイル。疲れていた私は、こここそが求めていた場所だ!と目がキラキラ。  すっかり心を奪われた私は、特にごはんを奢ってくれるわけでもないそのサークルに、空きコマや講義後に足繁く通うようになりました。  これが、私とジャグリングの出会い。    サークルに入会して知ったこと。ジャグリング道具はけっこう値が張ります。個人の道具は自分で購入します。そのため、新歓にはできるだけお金をかけたくない。  活動内容自体にインパクトがあるので、練習風景を見せるのが一番ローコストで効果的な勧誘方法です。  結局私は、思惑通りに新入生ホイホイされていたのでしたとさ。
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