世界一のお婿さんになりたい!

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 僕はひたすら勉強と部活に勤しんだ。学年でもトップクラスの成績を常にキープし、サッカー部では全国大会出場への立役者となった。渋谷を歩いていたら、モデルにスカウトされるくらい外見も洗練させた。  やはり世界一のお婿さんになるには強くならなくてはいけない、とこの頃悟った僕が自室でブラジリアン柔術の練習を枕相手にしていると、誰かがドアベルを鳴らした。 「何だユナか。今忙しいんだけどな」 「回覧板届けに来たよ」 「お前、遊びまくってるんだって?」 「だって女子高生だもん。もったいないじゃん」  こいつ本当にテキトーだな! と怒りを感じた僕は真顔で尋ねた。 「小学生の頃の夢はもう諦めたのか?」  するとユナは一瞬黙ってからニコっと笑った。 「諦めてないよ」 「ふーん。そうか」 「マサル君こそ諦めたの?」 「何言ってるんだ! 僕は日々鍛錬を積んでいる!」 「そう? なんかズレてる気がするけど。じゃあ、私、これから原宿行くから」  去って行くユナの後ろ姿を僕は憎々し気ににらんだ。  落伍者が!  高校を卒業して、僕は日本最難関の大学に進学した。この頃になるともう女性は僕を放っておかなかった。しょっちゅう言い寄られて、それがストレスになるほどだ。  しかし、その中に運命の人はいなかった。可愛い子も、性格が良い子も、話が面白い子も、その全部を兼ね備えている子もいた。でも、なぜか胸がときめかない。魅力的ではあるけど、この人が運命の女性なのか? と考えると二の足を踏んでしまう。僕はまだ付き合ったことがなかった。  英語とフランス語と中国語をマスターした僕が時代の先を読んでヒンズー語の勉強を喫茶店でしていると、ユナが恋人らしき男と店に入って来るのが目に入った。  そのとき生まれて初めて僕は劣等感を覚えた。  あんな男と付き合ったってどうせすぐに別れるさ。  楽し気に会話するユナの声を聞きたくなくて、僕は店を出た。 それからしばらくしてユナが結婚したという噂を耳にした。何だかとても大事なものを失った気がした。  ライバル……だったのかなぁ。幸せになれよ、ユナ。
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