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新宿の喫茶店にユナはいた。最後に食料雑貨店で会ってから数年が経ち、やつれて見える。だが、ユナの姿にはどこか少女のような愛らしさが残っていた。
「どうしたんだ? 何かあったのか?」
僕が腰を下ろしてそう尋ねると、ワッとユナは泣き出した。
「夫が女を作って家を出て行ったの! どうしよう、マサル君!」
「落ち着くんだ、ユナ。もう家に帰って来てるかもしれないぞ?」
「そんなはずない! だって離婚届に判をついて出て行ったんだもん!」
僕は愕然とした。世界一のお嫁さんという壮大な夢を叶えたユナを、彼女の夫はどうして捨てるなんてことができたのだろうか?
込み上がる怒りを抑えて、僕は努めて冷静に尋ねた。
「お子さんは今どこに?」
「家にいるわ。きっと寂しがってる……。だってもうパパはいないんだもんね」
そのとき、僕の口は無意識の内に動いていた。
「ユナ、結婚しよう」
「え……?」
「ずっと好きだった。僕を世界一のお婿さんにさせてくれ」
僕がテーブルの上のユナの手を握るとユナもそっと握り返した。
「ありがとう。マサル君」
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