第十二話

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第十二話

(全くわれながら損な役回りっしょ)  雁須磨は巨大鶏を引きながらそんなことを考えた。なまじカリスマナンバーワンを自負しているだけあり、こういう時には自然とスイッチが入る。  最初は自分を奮い起こす意味合いも強かった。実は雁須磨は中学までは陰キャとして知られていた。  クラスでも影が薄く目立たない存在。それは天王高校に入ってから暫くもそうだった。趣味はゲームやアニメ。勉強もそこそこにスポーツなんて無縁だっった。  だがある日、帰り道で彼は自転車競技部が道路を走っている様子を目撃した。その時に何故か胸に熱いものを感じた。  自転車なんて車よりも圧倒的衣遅い筈なのにレースゲームよりも高速に思えば。バイクよりも迫力を感じた。  すっかり自転車に魅入られた雁須磨は少しでも共有したいと思い先ずはロードレースを題材としたゲームをプレイした。  オンラインにも対応しておりそれにも熱くなった。元々ゲーム好きだったのでランキングは順調に上がっていった。  だがそんな彼がどうしても勝てない相手がいた。何度やっても何度チャレンジしても勝てない。だけどそれでも頑張って何度もチャレンジし遂に僅差ではあったが彼を抜き一位を取った。  その直後だった勝手にライバル視していたプレイヤーからメッセージが届いた。ナイスケイデンスと言われた。  何となくそれを見て自転車関係者なのか、と聞いた。そこで帰ってきたのは山陸高校自転車競技部の選手だということだった。  それに心底驚いた。まさかあの激しい自転車競技の練習を毎日こなしながらゲームでも実力があるなんて。  とたんに恥ずかしくもなった。自転車に憧れながらゲームで済まそうとした自分が。 「――自転車が好きならリアルのレースでも活躍できるか」 とそう思わず聞いていた。馬鹿らしいと思った。こんなこと聞いても否定されるに決まってると勝手に思っていた。 「そんなの当然だろう! 好きこそものの上手なれ! 先ずが好きかどうかが大事なんだ。ましてゲームでここまで上手くなれるなら努力次第でいい選手に慣れるはずだ!」    なんだそれ、と雁須磨は苦笑した。だけど否定どころか肯定しきっと上手くなれると言ってくれた。  次の日、雁須磨の足は自転車競技部に向かっていた。そして入部後必死に練習を重ねた。  最初は陰キャ体質のまま自転車競技に挑んでいた。だがどこかで限界を感じた頃があった。  その時に現在の主将である王に言われた。 『雁須磨はもっと自信を持つべきだ。実力は十分にある。だからもっと前を見ろお前は皆を引っ張れる存在だ』と。それを聞き雁須磨はゲームで自分を奮い立たせてくれた相手、光を思い出した。    彼はライバル高校である山陸の選手だが、そのレース内容は常に明るく光り輝いていた。  だらこそそれを見習い雁須磨も次第に明るくなり段々を皆を引っ張るようになっていた。そこで思ったゲームでは陰キャだった俺もリアルでは変わらないといけない。  そうそれなら俺は徹底的な陽キャになりみんなを引っ張る存在になろうと。それが結果的にカリスマナンバーワンと噂されるまでに成長した。  だからこそどんな状況であっても雁須磨は弱みを見せない。皆を元気づけゲームを引っ張る。 「こい鶏野郎!」    拳を上げ雁須磨は見事に巨大鶏を引いていた。男児がコースを外れ皆がそれについていく。  雁須磨は見事にしんがりを務めた。巨大鶏も思惑通りコースを外れ彼らについてきた。  だが巨大鶏が生んだ鶏の群れは火神たちが向かった方に走っていった。予想はしていたが鶏も選手たちも完全に分断された。 『コケッコー! これは驚きだ。何と後方の集団が二手に分かれ一方はコースを外れてしまった! それをおいかける巨大チキン。なるほどなるほど。これはなかなか餌にしては考えましたデスねコケッコーーーー!』  頭上から鳥獣鬼餓が叫んだ。相変わらずのふてぶてしさに腹が立つ一同だが反応を見るにルール違反ととられることはなかったようだ――
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