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第十三話
「無事でいてくれよ雁須磨、万能!」
火神が叫びペダルを力強くこいだ。
「あの二人なら大丈夫だ。それよりも気合い入れろお前ら!」
仁が他のメンバーに向けて声を上げ発破をかけた。二分し半分の選手は二人が引き受けている。
ペダルを回しスピードを上げ後ろから追いかけてきている雛の群れを引き剥がしに入る。
「あの巨大なのに比べればそいつらはだいぶましだ! 一気に抜けるぞ!」
「うむ。壁役をしっかり立て速度を上げるのだ!」
二人の掛け声で一時はパニックに陥っていた面々も火神と大頭が引っ張り始めたことで確実に意識が変わった。
それぞれフォーメーションを戻し入れ替わりながら安定した走行を見せている。
巨大鶏が生み出した雛は人ほどは大きいがやはり親の鶏に比べたら動きは遅い。そう思われていたが――
「ピギョ、ピギョ、ピ、コ、ケ、コケッ、コケェエエエェエエエ!」
しかし雛だと思われていた化け物たちが突如成長し鶏へと変貌を遂げた。親の鶏程の大きさはないが成人男性よりも一回りは大きい鶏達。どんどん成長し増えていく鶏の大群に前を行く面々は勿論、火神と大頭も表情を強張らせた。
「クソ! 回せ回せ!」
「何だってんだこいつら!」
『コケッコォオオオォオオ! 雛は成長しないといつから勘違いしてましたか? 子の成長は早いのですよコケッコーーーーー!』
鳥獣鬼餓の耳障りな声が各々の耳に届く。焦る選手を見ながら愉快そうに笑っている鶏頭が憎々しく思えた。
「よぉ! 苦労しているようだな!」
その時だった正面から黒いジャージの集団が下がって来て彼らと合流した。
「黒鬼――何でお前らここに?」
火神が問いかける。大頭も訝しげだ。何故なら合流した黒鬼工業高校には黒い噂が絶えずこれまでも好成績を上げたレースでは危険者が続出したりと不自然なレース展開になることが多かった。
「なぁに。ここまできたら俺たちだって運命共同体だろう? だからちょっと協力してやろうと思ってな」
リーダーの黒井 豹が言った。白のメッシュを入れたヒョウ柄の髪が特徴だ。小柄だが踏み込みは力強い。
「協力してくれると言うならお前らもしっかり引いてくれ。後ろには体力的にも精神的にも限界が近いのがいる上、小型とは言え化け物の鶏が増えてる状況だ」
大頭が合流した黒鬼の面々に指示した。黒鬼にはまだ余裕があるように思えたからだろう。
「……あぁそうだなしっかりと引いてやるよ。おい」
黒井が顎でくいっと促した。すると何人かが頷きかと思えば先ずはベビのような目付きをした男が後方に下がり疲れが見える集団に携行食を差し出した。
「これ、食え。元気が出る」
「はは。毒島のそれは効くぜ。しっかり食っとけ」
黒井もそう促した。選手たちがありがとうごそれを受け取り口にする。
「確かにこの状況でエネルギー補給も大事だ。だがフォーメーションも……」
「「「「「ぐぼぉぉおおッ!?」」」」」
だが、その時だった。毒島から受け取った携行食を食べた選手たちが喉を押さえ苦しみだしバランスを崩した。
倒れた選手たちに当然のように鶏が群がっていく。選手たちの悲鳴がコースに響き渡った。
「て、テメェ何しやがった!」
「はは。だからやってやったじゃねぇか。しっかりと間引きをな」
黒井はベロを出し悪びれもなくそう答えた――
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