第七話

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第七話

『コケッコー! どうですか皆さん! これはインターネットでも絶賛ライブで配信中。そうなるとやはり、こういったイベントも必要になるでしょうコケー! 特に美少女が喰い殺される様子は特に反応が良い! 視聴者数はぐんぐん上昇中、ケッコーケッコーコケッコー!』  鳥獣鬼餓はまるでネットの視聴者に向けてアピールするようにそれを語る。  それが、現実のものとして眼の前で見ている者にとっては殊更不気味であり。 「え? ひ、どうして、こんな、私食べられてる、ひゃは、鶏、大好きなのにチキン大好物なのに、私、逆に、たべ、たべ、たべられて、ヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャアア!」  鶏の群れにもてあそばれるように喰われていく少女たち。少女らは新しくやってきた鶏にも群がられ腸を引きずり出され眼球をくり抜かれ、頬の肉を引きちぎられ、とあまりに惨たらしい目にあいつづけ、精神が完全に崩壊してしまった。  だが、それも数分後には脳みそそのものを抜かれ、心臓もえぐり出された事で沈黙する事となる。 『コケッコーー! さてさてこの光景を見ている皆々様型にお知らせです! 今回早速チーム単位での脱落校が出てしまいました。五〇チームがしのぎを削り合うこのチキンデースにて、早くも一〇チームが脱落したのです。コケッコー! あまりに悲惨! ですが仕方ありません。チーム全員が脱落した高校にはペナルティーとして、一人に付き五〇人の生贄を差し出してもらいます。つまり一校につき三五〇人、一〇チーム分で三五〇〇人分の生贄を! チキンの餌を差し出すのです!』  あまりにおぞましい光景の中、まるで当たり前のようにとんでもない事を口走る鳥獣鬼餓に、聞いている方もわけがわからないといった様子。  だがその直後、フィールド内に光が溢れ、どこからともなく大量の制服を着た生徒や教師などが姿を見せた。  あまりにありえない光景だった。五〇チームは各都道府県の代表が選ばれてやってきている。つまりそれぞれの高校の場所はバラバラ、距離の差もある。    どれだけ速い乗り物を使ったところでこんな一瞬で、しかも同時に同じ場所に連れてくるなど不可能だ。  しかし、それをこの鳥獣鬼餓はやってのけた。理解する他なかった。この存在は、新たに増えた餌に飛びついていく鶏以上に、化物なのだと。  そして更に狂宴は続いていく。新たな餌を目の前にし一斉に鳴き声を上げる鶏の集団によって。突然の事に理解が及ばず、理不尽な出来事に恐怖し、泣き叫び、助けを求める生贄の絶叫を残して――  黒鬼高校を追いかける形で疾走を続けるチーム天王とチーム山陸。  だが、その表情は昏い。当然だろう。取り残されていた選手や生贄に選ばれた者の末路。その上チームが全滅すればその高校から三五〇名もの犠牲者が生まれることになる。  あの憎らしい鶏頭によると最初だけは説明のために、ある程度様子を見てから実行したが、今後は脱落したのを確認してすぐに生贄の儀式は行われるという。    これはつまり、既にこのレースは選手のためだけのものではないことを如実に表していた。    例えばあの巨大な鶏に喰われるのを恐れて、途中コースから脱線して逃げるという手を考えていたとしてもこれで確実に楔が打たれたことになる。  そんな事をすれば当然生贄に選ばれた大事な人を失うことになるからだ。そして柱で縛められているその多くは、関係している選手にとって関係の深いものである。  それはあるいは家族であったり、あるいは親友であったり、あるいは彼女であったり、と選手によってバラバラだが、見捨てて逃げられるような存在ではないだろう。   「なんだなんだ、天下の二校様ともあろうものが、これじゃあまるでお通夜じゃないか」    その時、後ろから追い上げてきた集団が合流し、声を掛けてきた。  それは蒼海高校自転車競技部の面々であり声を上げたのはチーム蒼海の主将である(さや) 栄治(さや えいじ)である。  彼は面長でキツネ目の男であり、前を行く集団を挑発するように見ている。 「チーム蒼海か……初日三位、でも後ろのは初めて見るな」 「あぁ、うちのエースの二年、神威(かむい) (そう)だよろしくな」  すると、紹介された槍も一揖するが、何かを語ることはない。ストイックな性格なのか、それとも一連の出来事にショックを受けているのか―― 「エースなのに二日目から参戦なのか?」    光が尋ねる。正直雑談している状況でもないが、何か別なことで気を紛らわせなければとてもやっていられない。 「エースだからだ。一日目から出しても良かったが、敢えて温存したのさ」 「温存策か……なるほど、それも一つの手だな。だが、残念だがそれも既に意味をなさなくなったな」 「そうでもないさ。むしろこんな状況だからこそ温存しておいて良かったと思うぜ」 「は? まさかあんたらまでうちの登みたいにまだレースにこだわっているのか?」  王の発言に含みを持った返しを行う鞘。それを耳にし呆れた顔で光が問う。  そのまま登を一瞥するが、さすがの登もそれについては沈黙を保っている。いや、登だけではなく彼と同じように山岳賞を取ることに拘っていた、白鈴や楽も静かなものであった――
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