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そのまま男性――クローヴィスはマーガレットの身体を抱きかかえたまま外へと移動する。
そして、連れてこられたのはトマミュラー侯爵邸の中庭だった。どうやらクローヴィスとこの家の当主は知り合いらしく、入っても問題ないと彼は言った。まぁ、マーガレットにはそれが真実なのかを知る術はないのだが。
マーガレットの身体をベンチに降ろしたかと思えば、彼はマーガレットの前に跪く。その後「失礼、レディ」とだけ声をかけると、マーガレットの靴を脱がせた。
「……ふむ、これは相当ひどい靴擦れのようですね」
クローヴィスはそれだけを告げると、マーガレットの足を見て何処となく顔をしかめる。それから「本日は、帰った方がよろしいかと思いますよ」とにこやかな笑みを浮かべて告げてきた。
しかし、マーガレットとてここで易々と帰るわけにはいかなかった。なんと言っても、アストラガルス子爵家の未来がかかっているのだ。アードルフの言いなりになるのは癪だが、それしか未来はないとマーガレットだってわかっている。
「……そういうわけには、いきません」
だからこそ、マーガレットはゆるゆると首を横に振ってクローヴィスを見つめた。
その緑色の目には強い意思が宿っているかのようであり、それを見たためなのか彼が露骨に息を呑む。が、彼は何を思ったのかマーガレットの隣に腰を下ろし、「どうして、貴女はそこまで言うのですか?」と問いかけてくる。
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